計画を練るとき、ひとはどうしているか?

ひとは計画を練るとき、そしてそれをフローチャートに描こうとするとき、どうしているんでしょう。
もちろん、ケースバイケースでしょうし、個人差もあります。 でも中には、セオリーと呼べるような、一般的な傾向もあります。
その一つが、まず計画の細かい項目を洗い出す、ということです。

先に言葉から入る

「こんなことをやろう」 と考えます。
こんな項目があるぞ。 こんな作業も必要だ。 これについては不安だ。 これはどうなっているのだろう...

頭の中には、こういった、作業やら疑問やら不安やらの、キーワードが飛び出して来ます。
それらのキーワードが、ひと通り洗い出され、あれこれ検討され、 疑問や不安がだんだん作業の形に整理されてきたあたりで、作業の順番づけが始まります。

紙に書いていれば、まずキーワードが書き出され、そこにいろいろな書き込みが加わり、フローチャートの形に描かれるのは、そのあとです。
手順としては、

1.言葉を洗い出す
   
2.順番をつける
   
3.レイアウトを整える

となります。
大筋これに沿いながら、時折、”順番” から ”言葉” に戻ったり、”言葉”, ”順番”, ”レイアウト” を行き来しながら、 自分の思考とフローチャートを仕上げていく、というのが、一般的な流れだと思います。

言葉から作れるソフトがない

ところが、この流れでフローチャートを作れるソフトが見当たりません。 (企業の内部や、世界のことは知りませんが、日本で市販されるソフト、オンラインソフトには、ないと思います)

今、主流なのは、あらかじめソフトが用意した図形 ( ○や△や、「パソコン」 や、「ガソリンスタンド」 の絵に至るまで豊富) を、ドラッグ&ドロップでチャートウィンドウに配置していく、というものです (参照)

操作の流れとしては、
   ”絵をひとつ置く → 言葉を入れる” を繰り返すか、
   ”絵をひと通り配置してから、一気に言葉を入れる” のどちらかになります。
ほとんどのソフトがこの操作を採用し、豊富な図形集を競い合っているのが、今のチャートソフトの状況です。

「絵が先」では地味なチャートは描けない

豊富な図形と、ドラッグ&ドロップ操作... 商品としては非常に見栄えがします。
でも、”人が計画するとき” の生理には合っていません。

また、この描き方には、幾何学的な図形しか登場しない地味なチャート (計画フローやプログラムフロー、データフローなど) には向かない、という弱点があります。
これは単純な話で、幾何学的な図形をある程度以上並べると、どこにどの言葉を入れていいのか、わからなくなるからです。

作曲が先のチャート、作詞が先のチャート

音楽の曲作りに、作曲が先の場合と、作詞が先の場合があるように、
チャートにも、「絵が先」 の描き方が自然なチャートと、「言葉が先」 の描き方が自然なチャートがあります。

絵が先のチャートとは、コンピュータのネットワーク図や、絵地図などです。
絵が派手で、チャートのレイアウトは絵の内容によって決まります。
だから、絵を先に描いたほうが描きやすく、また、絵を先に描いてしまっても、わからなくなることはありません。 (参照)

言葉が先のチャートとは、計画フローなどの地味なチャートです。
チャートのレイアウトは、言葉の意味や分類、関連によって決まります。
だから、言葉が揃わなければ絵も描けず、たとえ絵を先に描いても、訳がわかなくなるだけです。 (参照)

今のソフトの弱点は

計画フローを、今主流のソフトで作成するとしましょう。 使いにくい点をまとめると...

1. 「言葉が先」の作り方ができない

2. 言葉の作業とレイアウトの作業を分離できないので
    ・ 手がキーボード (言葉の入力) とマウス (レイアウト) を行き来して、せわしない。
    ・ 思考が、言葉を考えるのと、レイアウトを考えるのを行き来して、煩わしい。

言葉を取り出したり検討するとき、レイアウトを考えるのは雑念である場合もあります。
逆に、レイアウトを考えるときは、それに集中したい。
2つの思考は、かなり質の違ったものですから、分離可能であるべきです。

言葉が先の操作性を

計画フローや、地味なチャート全般には、
1. まず言葉をキーボードでどんどん入力できる
2. 次にレイアウトに集中してチャートの形を整える
という操作が必要です。
そこで、フローチャートソフトに、

・ 言葉を入力し、ストックしておくためのエディタウィンドウ ( ”文字のパレット” ) を用意する
・ 文字のパレットで文字列を選択し、フローウィンドウにドラッグ&ドロップすると、 文字列がフロー図形 (処理、成果、判断など) に自動的に変換され、配置される

という機能を付けました。 それが PlanningFlow です。
(参照 言葉の作業)
(参照 絵の作業)

今のソフトには下書きが要る

この先は余談です。

昔話になりますが、私がチャートの描き方を初めて意識したのは、まだ 80年代でしたが、ソフト開発の仕事に就いて、 大型機のプログラムを開発したときです。
当時は、必ずフローチャートを描いていました。 もちろん、紙とシャーペンと、「テンプレート」 と呼ばれる図形定規を使ってです。 先輩による 「フローチャートレビュー」 を通過しないと、先の作業に進めない決まりになっていました。(古い話でしょう?)

だから、少しでも速く描きたい。
そこで、図形だけをどんどん描いてみたりもしました。
これは速い。フローは見る見る出来上がっていくかのようです。
テンプレートとシャーペンを持ち替える煩わしさもない...
で、ふと気づくと、前述のようなこと になっているのです。
「この描き方はダメだ」 身に染みました。

ところが、この描き方を、某メジャーチャートソフトが、入門マニュアルの巻頭に載せているのには驚きました。 「チャートをこうして作ります」 という趣旨のページです。
マニュアルライターは、単純に、見栄えのするイラストを描きたかったのであって、 そのソフトに都合のいいチャート作成法を、広めようとしたわけではないと思います。
でも、入門マニュアルですからね。
学校の生徒さんとか、まだ判断のできない人たちも見るわけで、こういうのはちょっとね。

この描き方を成功させる方法が一つあります。 下書きを用意するのです。

1.下書き作成
   
2.コンピュータ入力

という手順を取ります。
ソフトが草稿作成段階をサポートできていないと、往々にして、このような昔のコンピュータの使い方に戻ってしまいます。 今主流のソフトは、(”地味チャート” については) おそらく、清書の道具として使われているのではないでしょうか。

清書ソフトではチャートの活用は増えない

清書が綺麗にできる... それはそれで前進ですが、それでは、チャート活用の場面そのものは、増えないのではないでしょうか? 昔から (紙や鉛筆で) 清書されてきたものが、コンピュータで清書されるだけではないでしょうか?

チャートの情報量、チェック能力、表現力、説得力...などが優れていることは、よく知られることです。
文章や会話よりもチャートはデジタルです。 コミュニケーションミスが起きないのです。

経験から言うと、この数日間、1週間といった短期間の段取りでも、チャートで見せると、関わる者の意識が正しい方向にまとまります。 だらだらしたり、不要な部分に力を注いだりする者がいなくなります。
また、計画フローをちゃんと描ける人、フロー的なイメージを思い浮かべて、今後の段取りをチェックできる人は、 トラブルを起こす率が低い、というのも実感です。

だから、できれば、もっといろいろな場面にチャートを使いたい。
でも、多分これまで、そうした常日頃の営みのチャートや、短期の使い捨てのチャートは、 世の中であまり作られてこなかったと思います。
だって、描くの面倒ですから。
で、コミュニケーションミスも、相変わらずたくさん起こっていると思います。

清書ソフトには、その状況を変える力はないでしょう。
そこで、「むちゃくちゃ操作性を高めたら、今まで ”未チャート” だった場面でも、チャートの活用が盛んにならないだろうか」 なんてことを考えたりしてます。

今はメールが普及してきたので、チャートソフトを、社内の企画やコミュニケーション、スケジューリングに 活用することもできるでしょう。 組織としてはコミュニケーションミスが減り、個人の計画に対するチェック能力も高まるのではないでしょうか。

切り口がチャートなだけで、得られる結果は、「グループウェア」 と同じだと思います。
皆さんはどう思われます?